小説
江ノ島と対峙した西浜と呼ばれる小さな海岸。夏には多くの海水浴客が集うこの場所も、今は至って静かな場所だ。近くも遠そうにも見える江ノ島の灯台には、その隣を紅い夕日が沈みかけていた。 そんな風景の片隅に、ぼんやり一人の少女が立ち竦めている。白い…
「へぇ〜。あの漫画、ついにアニメ化されるんだ」 「うん。だけどこれまだ非公開情報だから他の人へ言っちゃダメだよ?」 弁天橋から海を渡り、お土産売り場が並ぶ賑やかな参道を過ぎると、いよいよ本格的な階段登りになる。体力に自信のない人間の方々はす…
今日一番の目的地は、江ノ島の対岸にある水族館だ。俺らは館内を散策した後、水族館の終点となる売店に辿り着く。にしても気づけば上杉は俺から微妙な距離を取りつづけているし、今日の江ノ島探索の目的が親睦交流だとしたならば、本当に成功と呼べるのか、…
緑色の古めかしい電車はどこか懐かしい音を立てながら、江ノ島駅へと辿り着いた。 学生寮の最寄り駅からは十分ほど。『江ノ島』と冠した駅名のくせに、実際に島へ辿り着くには歩いてさらに十五分ほどかかる。これだと何も知らない無邪気な子供たちには、『嘘…
幸いなことに、わたしがシャワーを浴び終わるまで、脱衣所の内鍵はずっとかかったままだった。透と大樹くんはリビングにいて、ネットで調べごとをしていたから当然のこと。恐らくわたしの裸には一切興味なかったのだろう。二人は互いに画面と向き合ったまま…
「だ、だからごめんって。てかなんで風呂場の内鍵をかけておかなかったんだよ」 「かけたもん! ちゃんと鍵かけてたはずなのに、なんで勝手に開けるのよ!!」 男子寮二号館、八九七号室。運悪く唯一の男子住民である大樹くんは、共同生活初日から覗きの嫌疑…
「でもまだご飯もできてないし、お風呂も先約がいるからどっちもダメなんだけどね〜」 「いや、そうじゃなくて!」 「ん〜? ひょっとして君、こういうの好きじゃないの? もう少し乗ってきてもらうと助かるんだけど」 「てゆか何をやってみたかったんだよ!…
春の光輝く風を乗って、桜の花弁がふわりと校門の前へと舞い降りた。 入学式は今からちょうど一時間後。窓から外を覗くと、あどけない顔立ちでそわそわした素振りを見せる女子高生たちが、校門前に広がるピンク色の絨毯を歩いている。頼りなくも見える小さな…