しかつきかふぇ

ちょっとした休憩時間に

セピア色の傘立て

流れ降る星の雨音 〜燐〜 006『青い海の底に眠る猫の涙』

ここは八景島と呼ばれるだだっ広い公園のような場所。夜に予約したレストランからも近く……はない。 何か特別なものがあるかと聞かれると、水族館とジェットコースターくらいなものか。だけどお金がないなど言われてしまうと、他に何をすればいいのだろうと思…

流れ降る星の雨音 〜燐〜 005『月と賄賂と猫の箱』

暦も六月に入り、だけど天気はまだ雨がたまに降るくらいで、梅雨入りしたという話も聞いてない。 月香は『最近雨降らないね』とご機嫌斜めだった。どうしてそれが不機嫌になる理由なのかと僕も頭を捻るしかないけど、そんな曇り空の帰り道に甘くない災難が降…

流れ降る星の雨音 〜燐〜 004『シュレディンガーの猫の逃亡』

ここは僕の部屋。月香がうちに寝泊まりするようになってから、二週間が経った。 時間は五月下旬の夕方。下校中の帰り道はほんの僅かに小雨が降っていた。もうすぐ梅雨の季節がやってくると思うと、やや気が重くなる。だけど隣を歩いていた月香は『私は雨が大…

流れ降る星の雨音 〜燐〜 003『レンズの向こう側に映る光らない星々』

『虹色ゴシップ』専属プロモーション補佐係。それが僕と月香に任された仕事だった。 それは一体どこの学校の何を世話する生き物係だろうと思わないこともなかった。そもそも『虹色ゴシップ』ってなんだ!?ってところから始まり、デビュー前のアイドルグルー…

流れ降る星の雨音 〜燐〜 002『月と太陽と星の光』

翌朝から、僕はその彼女を連れて、一緒に学校へ登校することになった。 彼女と言っても特に付き合ってるわけではないし、どちらかというと家と学校が同じだから別々に登校する理由がないという話だ。正直、僕は満面に咲き誇ってる花と一緒に歩いてるような気…

流れ降る星の雨音 〜燐〜 001『シュレディンガーの猫の鳴き声』

そもそも僕はどうして横浜にいたのだろう? 帰りの東海道線でなんとか思い出そうと試みるも、どうしても思い出せなかったんだ。何かがふわっと浮かんできて、またすぐにすっと消える感じ。それが二十分くらい繰り返されたところで、気づくと電車は自宅の最寄…

流れ降る星の雨音 〜燐〜 Prologue

これがもう一つの時間が流れ始めた瞬間だった。 あまりにも一瞬の出来事で、本当に何が起きたのかわからなかったんだ。気がつくと僕の両腕に彼女の体重がずしりとのしかかっていて、徐々に痛みさえ伴ってくる。いや、彼女の身体が重いとかそんなことはなくて…

セピア色の傘立て 008『虹色ゴシップ』

春の大型連休も終わり、坂道だらけのこの街にも若葉の香る空気が流れ込むようになった。瑞々しい五月の風が落ち込み気味だった私を勇気づけてくれる。そんな心地がある。正直、今年の桜の匂いは鬱陶しいほどに苦手だったから、ようやく季節が春らしく思えて…

セピア色の傘立て 007『姉と弟と過去と未来』

夜空はまだ厚い雲に覆われているけど、ところどころ雲の隙間から星が煌いている。 芸能事務所『カスポル』の建物の三階は居住区になっていて、両親と私、そして隼斗がここに暮らしている。もちろん私と隼斗の部屋は別々で、だけど私が隼斗の部屋に無断で侵入…

セピア色の傘立て 006『自分を嫌いな彼女がアイドルになる資格』

外へ出ると、冷たさの元凶でもあった雨の音はすっかり止んでいた。 あいつがアイドルデビューするという件は、緑川が『やりたくない』と拒絶したことにより、一旦保留が決定する。すると星乃宮楓と名乗っていた彼女は、忽然と姿を消してしまった。まるで幽霊…

セピア色の傘立て 005『アイドルとして求められるもの』

「先方とも話はついてるって、わたし何も聞いてないのですけど?」 碧ちゃんの話であるのに、一番驚いていたのは碧ちゃん自身だった。確かに碧ちゃんの口からアイドルの話などイチミリも出てきてなかったわけだから、本当に初耳だったのかもしれない。「うち…

セピア色の傘立て 004『混沌のコーヒーカップ』

「隼斗は私がアイドルになることを後押しするんだ。随分と変わり身が早いのね?」 「別にそうは言ってない」 もやもやする。ずっとこれの繰り返し。何が言いたいのかさっぱりわからない。「さっきからそう言ってるじゃない! この話に関係のない碧ちゃんまで…

セピア色の傘立て 003『雨にまみれた嘘』

『私も役者を辞める。だけど芸能界は辞めない。私はアイドルになるよ』 愕然。言葉で表現するなら、恐らくこれに近いだろう。 矛盾。だってそうだろ。ストーカー被害に遭ってたくせに、どうしてアイドルなんかになるんだって。 憤慨。だが誰に対して怒ってい…

セピア色の傘立て 002『セピア色の傘立て』

彼が飛び出していった玄関には、夕方から降り続く雨の音と、一本の傘が残されていた。 今頃彼はずぶ濡れで、坂道の多いこの小さな街を彷徨っていることだろう。 なぜこんなことになってしまったのだろう。 事件があったあの日から、彼と私の時計はくるくる狂…

セピア色の傘立て 001『雨上がりの桜の夢』

昨夜は静かな雨だった。雨の雫がこびりつき、ピンク色の花弁は僅かに光り輝いていた。 同時に雫の重みのせいで、儚く散るその日も少し早まってしまったかもしれない。 ……いや、そんなの愚問だ。所詮は生まれた時から決められた運命でしかないのだから。 薄水…