セピア色の傘立て
『私も役者を辞める。だけど芸能界は辞めない。私はアイドルになるよ』 愕然。言葉で表現するなら、恐らくこれに近いだろう。 矛盾。だってそうだろ。ストーカー被害に遭ってたくせに、どうしてアイドルなんかになるんだって。 憤慨。だが誰に対して怒ってい…
彼が飛び出していった玄関には、夕方から降り続く雨の音と、一本の傘が残されていた。 今頃彼はずぶ濡れで、坂道の多いこの小さな街を彷徨っていることだろう。 なぜこんなことになってしまったのだろう。 事件があったあの日から、彼と私の時計はくるくる狂…
昨夜は静かな雨だった。雨の雫がこびりつき、ピンク色の花弁は僅かに光り輝いていた。 同時に雫の重みのせいで、儚く散るその日も少し早まってしまったかもしれない。 ……いや、そんなの愚問だ。所詮は生まれた時から決められた運命でしかないのだから。 薄水…