ここは僕の部屋。月香がうちに寝泊まりするようになってから、二週間が経った。
時間は五月下旬の夕方。下校中の帰り道はほんの僅かに小雨が降っていた。もうすぐ梅雨の季節がやってくると思うと、やや気が重くなる。だけど隣を歩いていた月香は『私は雨が大好きだよ』なんて言うんだ。理由はただなんとなくらしい。漠然としすぎているけど、それは少し羨ましくも感じてしまう。
「あ、三人のライブ配信、始まったみたいだよ」
「…………」
今日はアイドルユニット『虹色ゴシップ』の生ライブ、第一回目の配信日だ。コンセプトは先日月香が提案したとおりで、三人の日常を撮ること。あの三人の日常と言えばいつも喧嘩ばかりで正直不安しかないけど、とりあえずリーダーの陽川と、撮影係の隼斗がうまくまとめてくれるだろう。……多分。
本来なら僕と月香もプロモーション補佐係として、撮影スタッフのお仕事をするはずだったのだが……。
「ところでリッキーの方は勉強進んでる?」
「そう心配してくれるんならわざわざ僕の部屋で動画を観るのはやめてくれないか?」
「だめだよ。今日の私はリッキーの先生役なんだから」
「あの先生。あなた僕の邪魔するばかりで何一つ教えてくれてませんよね!??」
残念なことに、先週行われた英語の中間テストで僕は見事赤点を取ってしまったのだ。おかげで明日は追試を受けることになり、撮影は隼斗に全て任せることになってしまった。挙句に隼人は、この困った先生を僕にしっかり押し付けてきたわけで。
「だってリッキーがどこわからないのか全然わからないんだもん」
「……ほんとそれどういうこと!??」
ちなみに月香の英語の得点は、百点満点だった。全教科をひっくるめても、学年一位というやつらしい。何が釈然としないって、一緒に暮らしてるはずの月香が勉強している姿を僕は一切目撃していないという点。つまりこいつはまともな勉強なしで学年一位とか、頭おかしいとしか言いようがない。
ああ。神様はどうしてこうも世の中不平等な世界を創り出すのだろうね、全く。
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