「先方とも話はついてるって、わたし何も聞いてないのですけど?」
碧ちゃんの話であるのに、一番驚いていたのは碧ちゃん自身だった。確かに碧ちゃんの口からアイドルの話などイチミリも出てきてなかったわけだから、本当に初耳だったのかもしれない。
「うちの事務所主体で活動するアイドルグループに碧海ちゃんを参加させようって話よ。さっきも碧海ちゃんとこの社長さんとランチ食べながらその話をしてたんだから」
「あら奇遇ね。そういう話なら本当に何も問題ないじゃない」
だけどこの急展開な状況に、一番のほほんとしているのは星乃宮と名乗る彼女だったりする。まるでさも当然みたいな口調で、隼斗の淹れたブレンドコーヒーをちびちび飲み続けていた。ここまで堂々と居座られると苛立ちさえ覚える程だ。
「今日碧海ちゃんをここへ呼んでたのもそれが理由よ。どういうわけかその前に碧海ちゃんへ話が行き届いてしまったようだけどね」
「ああそっか。わたし今日元々この事務所に用事があったんだった」
「…………」
思わず私は隼斗と顔を見合わせてしまう。『だから言っただろ』みたいな顔をしている隼斗に、ますます苛立ちを覚えた。事実なのはママが碧ちゃんをここへ呼んでいて、近くの公園を歩いていたところをたまたま隼斗と出会っただけ。それは偶発的に発生した遭遇イベントでもなく、ただの必然だったらしい。
「これで決まりね。緑川さんと陽川さんとあたしの三人でアイドルデビューするって」
「でもそれにはもう一つ問題があるわ。遥華と碧海ちゃんはともかく、貴女は誰よ?」
が、ママは当然のちゃぶ台返しを繰り出す。得体も知れない少女に、おいそれとアイドルデビューなどさせられるはずもないのは当然だ。そもそも彼女についてはママも知らない少女だったというわけか。
「あの〜、それ以前にわたしアイドルやりたいなんて一ミリも言ってないんですけど〜!」
そしてすっかり蚊帳の外の碧ちゃんが可愛そうなレベルで、事務所の小さな会議室はやや不穏な空気に包まれてしまった。正直何をどこから突っ込めばいいのか、もはや全くわからない。
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